ライノタイプ2006年6月号メールマガジン Q & A

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ライノタイプ・タイプディレクター小林章氏に聞こう!!

いつもたくさんの方からコメントや質問を頂き、有難うございます!
今回は
章氏と質問者様との Q&A のやりとりをまとめてみました!


章氏に答えてもらおう!

クリックすると章氏のアップ!


ちょっとした疑問ありませんか?
これって聞いてみたら恥ずかしい??とかこれだけの事を聞くのはちょっと・・・などなど。

例えば現在好評発売中の Typeface Catalog A-Z の見本帳や FontExplorer 見本帳などのページをペラペラめくっていくと、ちょっとした疑問わきませんか?


 Q1見本帳の書体名の隣にある ( ) 内の数字って何なんだろう?
 
  例)Neue Helvetica™ (100)

   見本帳の凡例では "Source of typeface" と書いてあります。

A 「書体のトレードマーク保有者」リストが掲載されています。
ちなみに(100)はライノタイプです。

  カタログをお持ちの方:
Typeface Catalog A-Z の見本帳 578ページ参照下さい。
FontExplorer 見本帳 の最終ページ参照下さい。


Q2ITC Legacy® Sans と ITC Legacy® Sans by ITC って何が違うの?

 下記見本帳を見ると確かに2種類の同じ書体名が存在しています。しかし書体の最後に by ITC っておまけが??何故?
よ〜く見ると微妙に違います。しかし販売しているのは、Linotype 社からです。そんなちょっとした不思議に気付きましたか?

 日本でこのような事はないですよね。例えば「ライノ ゴシック体」という書体を A メーカーから販売しているのに、同じ書体名で違う B メーカーからも販売しているという事はまずないですよね。しかし欧米では、違うのです。


*ITC Stone® Sans (6) - Adobe Font, The Linotype ITC Library

*ITC Stone® Sans by ITC (6) - digitized by ITC, The Linotype ITC Library

↑Typeface Catalog A-Z より抜粋↑



: では何がまず違うのか?


図版だと ITC Stone Sans と ITC Stone Sans by ITC の違いが顕著で解りやすいです。
下記図版を見て下さい。

・ふたつのStone Sans の “a” を重ねてみる(赤が by ITC)
・ITC Stone Sans のカーニング
ITC Stone Sans by ITC のカーニング
ふたつのStone Sans の A - Z length (←AからZまで単純に並べた時の長さ)と記号類

違いがよくわかりましたよね?!
“a” 単体でも随分違うし、スペーシングも違うので A - Z length も結構差があります。
記号類に至っては、かなりの違いが見られましたね。


: では、この違いはなぜなのか聞いてみましょう!

章氏(以下A):
一番の理由は、1980年台までの書体の場合、デジタル化の方式が各社で違っていたためです。写植の時代、組版機の製造・販売を行っている会社は、自分の所の組版機に合わせて書体をアレンジすることもありましたし、紙に描かれていた原図のトレースを行う人やシステムにより、若干の違いが生じます。 またデジタルの時代でも、初期のバージョンと改訂版とが同時に市場に出ていることはよくあり、今回のITC Stone の場合は、オリジナルの作者サムナー・ストーン氏にきいたところ、ITC Stone Sans が初期の1987 年のバージョンで、「by ITC」の付いたほうは 1994 年の改訂版だそうです。これって、『デザインの現場』6月号の私の連載「定番書体徹底解剖」に書いた Zapfino(ツァップフィーノ)と、同2005年10月号の Galliard(ガリヤード)もそうですが、書体の数だけそういうエピソードがあると思います。オリジナルは一つだけじゃないわけです。

また、主要アルファベットや約物以外の記号類(例えば数学記号、トレードマーク記号、アットマークなど)は、書体をライセンス契約して再販売する会社が、そこの標準の記号を付け足すことが多いようです。

デザイナーは、例えばITCに販売権をゆだねたら、ITCが契約を結んだ再販売者 Linotype, Adobe などに自分の書体のデータが渡され、それを再販売者が自社の仕様で販売することを認めます。 だから同じ名前の書体がいろんな所から出ていて、仕様が微妙に違うのはそういうわけです。デザイナーがかってにあちこち契約して歩いているわけではないんです。

 

SDG(以下S):
デザインの現場での記事で、Galliard を取り上げられていた話は、意味わかんない〜何で?って思った方が多かったかもしれませんね。結局、ごく細部を見れば違いが分かるけれど、どれもオリジナルなんですね。では、ライノタイプから、モノタイプをはじめいろんなライバルメーカーの書体が手に入るのはどうして?

 

A:活字の時代、ライノタイプの宿敵はモノタイプでした。でも、モノタイプ社の書体 Bemboや Gill Sans などもライノタイプで販売していますし、カタログにも載せています。「Bembo でなきゃいやだ」というお客様にも満足して頂けるようにライノタイプでは Bembo もとりそろえているということです。ライバルの書体も同時に売って、そこから利益(自社開発の書体に比べればわずかです)を得て、モノタイプ社へのライセンス料(そっちの方が多い)を正当に支払います。

 

S:これって消費者にとっては、親切なしくみですよね。フォントメーカーとしては、複雑ですが・・・。

 

A:もちろん、セールス部では利益率の薄いライバルの書体に対してのいろいろな感情が渦巻いたりするわけですけど、お客様にもとっても、欲しい書体にアクセスできる窓口が多い方が良いでしょう。欧米のフォント業界は、そういう「ライバルなのに協力し合う」みたいなことがよくあって、ライノタイプだけが寛容なわけじゃないんです。どこもそう思っていて、それで最終的にフォント業界全体が活気づけばいい。書体の販売方法だけでなく、コンファレンスだってそうです。2003年、ベルリンの FontShop 主催のイベント「TypoBerlin」に私が招かれて講演をしました。当然、内容はライノタイプの新書体のことになるんですが、宿泊費、交通費は先方の負担です。FontShop のベネルクス支店が出した広報誌『96#』の巻頭特集では、私のインタビュー記事に5ページをさいたことがあります。

 欧米の書体デザインのコンファレンスでも何でも、そんなふうにからっと明るい。メーカー同士の壁がほとんどなくて、「書体が好きだ」という一つのことで強くつながっている感じがして、気持ちが良いんですよ。


S:どうも有難うございました!



他にもたくさん質問を受け付けています!
質問先:linotype@sdg-net.co.jp

またいつか Q&A シリーズをお届けしたいと思います、それまでお楽しみに!

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